私が「钟汉良 乐作⼈⽣巡回演唱会」で初めて中国大陸(中華人民共和国)に渡航した2016年〜2017年の時は、中国への短期滞在ビザは、免除されていたのですが、今では中国で仕事をするには就労ビザが必要でその他に「外国人工作許可証」の発行が必要となります。
「钟汉良O巡回演唱会」2021年〜2022年ではコロナ禍で感染症の蔓延や情勢の変化により、渡航制限があり、中国に行く事さえ困難な状況下で、就労ビザを取得するハードルは高く、公演日程ギリギリまで時間と手間を要しました。
さて、中国で商業公演を行うには、公演地ごとに「商業目的文芸演出許可書」の審査を受ける必要があります。 この手続きは中国のコンサートプロモーターを通して行わなければならないのですが、
この申請には 実施概要、施工内容の図面、音響 照明等、演出関係の詳細、出演者資料、実施運営、防火対策 避難誘導他…多くの書類提出が義務づけられています。
この審査を担うのが「中国当局」と言われている任務機関「公安警察」が行います。 
 
公安警察とは、日本の警察と違って、市民の日常生活や政治思想まで管理・統制する権限を持っており、万が一、公安に背いたら、治安管理処罰法に基づく行政罰の対象として処罰されてしまいます。 
問答無用に不平不満さえ言わせない権力を持っており、公安警察が許可を出さない限り、公演を行う事は出来ないのです。
つまり公安は、日本で言い変えれば、公的権力を持った御上(おかみ)みたいな存在なのです。 
 
公安による「商業目的文芸演出許可書」の審査基準は、公安が定めたルールによって禁止事項は定められていますが
コンサートを仕切る中国のプロモーターは、政府の意向を感じ取り、公安警察とのトラブル回避で、自ら規制し忖度するので、公安の定めたルールは意図的に不明確にしており、ローカルルール的な曖昧さがあります。
 
日本には消防法という法令があり、防災観点から安全基準のルールが定められており、演出効果で用いるスモークやファイヤーボールと呼ばれるような 花火・火薬・裸火演出を行うには『禁止行為解除申請」の手続きとして 客席配置や通路幅の基準確保、特殊機材の安全性、仕様燃料の試験結果の安全基準をクリアさえすれば特例処置がありますが、中国は日本と大きく異なり、火薬、裸火演出は有無も言わせず完全N G、スモーク演出は指定された燃料物でしか不可とされており、地区によってはスモーク演出さえもNGなので、照明やレーザーによる演出効果は日本のようには出来なく、日本でプランした特殊効果演出は半分以上出来ないので、演出的にはかなり苦労させられました。
 
 
また出演アーティストが会場近くのホテルに宿泊しないように規制もしています。
これはファンが群衆となって集まらないように、治安維持に努めているというのが立前ですが、単純にコンサート会場地区で些細なトラブルだけで出動したくない処置です。
 
会場内に入る際は、空港荷物検査同様に一人ずつ金属探知機による手荷物検査がありますので、場内に入るのに相当な時間がかかります。そして会場内には重厚なバリケード柵を設置し、公安警察から派遣された警備スタッフが沢山います。
 
 
鑑賞スタイルはスタンドもアリーナも着座のみで、席から立ち上がっての鑑賞は禁止され、スタンディングオベレーションさえ出来ません、終演時間の規制も設けられ、定められた時間内にアーティストがステージから退場しなければ強制的に公演は終了となり、ステージの照明は落とされ、会場の客電が点灯されます。
幸い私の時は公演時間内で終了させているので、そのような経験はありませんが、公演時間についての誓約は再三となく現地プロモーターより厳しく伝えられていたので、誓約書通りルールを守らなければ強硬に執行されていたと思います。
 
これは中国で働く公演関係者から聞いた話ですが 大陸での興行はその時期の政治的背景は色濃く反映されるので、公演日程が内政事情によって直前でキャンセルになる事は普通にあり得る事なので、このリスクを承知しなければビジネスは出来ないと語っていました。
公演の日程が政府の都合で中止され、何の補償もないのは日本では先ずあり得ないですが、中国ではごく普通の事なのです。
実際「钟汉良乐作⼈⽣巡回演唱会」では 武漢、成都、蘇州は公安申請の許可が降りなく、公演が中止、もしくは会場地の変更になった事は現地に行く3週間前に知らされた記憶があります。
 
 
オリンピック同様にスポーツやエンターテイメントと政治は切り離すべきだと考えますが、政府の意向でエンタメが忖度される事は、中国に限らず アメリカL.A 、  UK ロンドンでも同様な経験はしているので、社会情勢によって政治がエンタメに影響を及ぼす事は何も中国だけに限らない事だとは思います。
 
日本人が 中国に限らず異国で仕事をするには、日本の常識は全く通じない事と、その国が定めた理解出来ないルール対峙しなければならなく、様々なリスクを背負う覚悟が必要です。
 
「何が正しくて何が悪いか」ではなく その国の文化や習慣を正しく理解する事が重要です、
大切な事は その国の文化や習慣を「知ろうとする意識」と「対話 コミュニケーション」であると思います。
 
実際、私が初めて上海に行った際に、現場の作業行程や造作物の品質など日中文化のギャップや生活習慣の違いに困惑した事もありますが、中国に行く前と行った後では、中国という国に対しての印象は良い意味で変わりました。
 
ウォレスのコンサートに携わった中国のスタッフやキャストは、みんな日本のアニメやサブカルに興味を持ち、礼儀正しく新日家で、日本の文化を素晴らしいと言ってくれるとても好感が持てる素敵な人ばかりでした。
 
私は中国で出会った人に対しては敬意を持ち続けていますし、また機会があれば中国大陸で仕事をしたいと思っています。 
だからこそ日中友好関係の発展を心の底から願っております。